1. 他職種との圧倒的な「差」に悩む日々
- 新人栄養士(Aさん): 病院勤務1年目。多職種カンファレンスで発言できず、自分の専門性のなさに落ち込み気味。
- たぬきもん: 勤続16年の管理栄養士。厨房業務や栄養管理、チーム医療に長年携わっている。
新人Aさん: 「たぬきもんさん、相談に乗ってください……。最近、カンファレンスに出るのが辛いんです。医師や看護師さんは患者さんの病態をパッと判断して指示を出しているのに、私はデータを追うだけで精一杯。他職種とのレベルの差を痛感して、管理栄養士として現場にいる意味があるのか分からなくなってしまって……。」
たぬきもん: 「その気持ち、よく分かるよ。誰もが一度は通る道。でもね、その『差』を感じるのは、Aさんが管理栄養士の役割を真剣に捉え始めている証拠。まずは、私たちが置かれている現場の構造を理解することから始めてみましょう。」
2. 管理栄養士の役割は「モノ」から「ヒト」へ変化している
たぬきもん: 「かつて管理栄養士の業務は、献立や食品といった『モノ』中心でした。でも、今のカリキュラムでは、人間が自立した食生活や健康を維持するための栄養ケアを支援する『ヒト』を中心とした業務への転換が図られているの 。高度な専門性が求められるようになった分、現場で求められるハードルも上がっているのよ 。」
新人Aさん: 「『ヒト』を中心とした栄養ケア……。確かにそう習いましたが、現場では他職種の方がより患者さんに密接に関わっている気がしてしまいます。」
たぬきもん: 「そうだね。でも管理栄養士には、傷病者に対する療養のための栄養指導や、高度な専門的知識を要する栄養管理という、法律で定められた固有の役割がある 。医師の指導を受けながらも、栄養評価・判定に基づいて適切なマネジメントを行うのが私たちの仕事なんだ 。」
3.現場で感じる「圧倒的な壁」の超え方
新人Aさん: 「他職種とのレベルの差に落ち込んでいます。。看護師さんは患者さんの病態の変化にすぐ気づくし、薬剤師さんは処方意図を的確に汲み取ります。それに比べて私は、データを読み解くのにも時間がかかって……。同じ医療職なのに、なぜこんなに差があるんでしょうか?」
たぬきもん: 「その焦り、よくわかる。でもね、まずは自分を責める前に、冷静に『学生時代に現場で過ごした時間』を比較してみましょう。私たちが『差』を感じるのは、ある意味で当然のことなのよ。実は、日本の管理栄養士養成における実習時間は、他職種と比べて圧倒的に少ないのが現状なの。」
● 数字で見る「現場経験値」の構造的格差
- 管理栄養士の実習時間: 日本では合計4単位(180時間程度)、期間にすると約4週間〜5週間ほど。国際基準(ICDA)では最低500時間以上が求められるが、日本は世界的に見ても実習時間が極めて短いグループ(10週以下)に属している。
- 看護師の実習時間: 法定で735時間以上と定められており、単位数にすると23単位にも及ぶ。
- 薬剤師の実務実習: 病院と薬局で合計22週間(約800〜900時間)の実習が行わる。
- 理学療法士の実務実習:810時間以上 実習時間の3分の2以上は、病院や診療所などの医療提供施設で行う必要がある。
新人Aさん: 「えっ、そんなに違うんですか!? 看護師さんは私たちの約4倍、薬剤師さんは約5倍も、学生のうちに現場を経験しているんですね……。」
たぬきもん: 「そうなんだよ。他職種は学生時代にすでに『患者さんに触れ、現場で考える』という経験を何百時間も積んでいる。対して、管理栄養士は短い実習期間の中で、給食管理から臨床栄養まで詰め込まなければならない。スタートラインで臨床的な判断スピードに差があるのは、教育制度上の構造的な結果なのよ。」
たぬきもん: 「でも、悲観することはないよ。今の管理栄養士のカリキュラムは、かつての献立や食品という『モノ』中心から、患者さんの栄養ケアを支援する『ヒト』中心へと大きく転換している最中なんだ。栄養評価・判定に基づいた高度な専門的知識が法律でも明確に位置づけられるようになり、チーム医療の要として期待されているのは間違いない。」
3. 「課題発見」と「知識の統合」には時間がかかる
新人Aさん: 「実習だけでは足りない部分を、今、現場で必死に埋めている最中ということですね……。期待されているからこそ、自分の実力不足が苦しかったんです。でも、最初から差があるのが当たり前だと思えば、少し心が軽くなりました。でも、、、だからと言って管理栄養士も医療従事者の一人として甘えるわけにはいきませんよね。具体的に明日からどういう意識で仕事に取り組めばいいでしょうか?」
たぬきもん: 「その通り。現場では『課題発見(気づき)』と『専門的知識と技術の統合』という2つのプロセスが必要になる 。例えば、『この患者さんは栄養摂取状況から見て管理が必要だ』と気づき、学んだ知識を具体的な食事サービスや他職種連携にどう繋げるか。これは一朝一夕には身につかないけれど、プロとして磨き続けなければならないスキルなの 。栄養のスキル以外にも厨房と現場の調整も大切。どの食事形態なら対象患者さんに適切なのか。どれぐらいの個別対応が可能なのか。どんなOSNが使えてどんな栄養素が適切なのか。聞かれたらすぐに答えられるように準備をしておくこと。すぐに答えられなくても調べられる体制を整えておくこと。逆に多職種関連でわからないことがあればわからないままにせず積極的に質問するといいよ。看護師さんには患者さんのバイタル、薬剤師さんには薬の効果、PTさんにはどれくらいの強度のリハビリをしているのか。。」
新人Aさん: 「自分の領域や分野を固めておくこと。それから、コミュニケーションですね。」
たぬきもん: 「そうだね。まずは自分の役割をしっかり果たす。『チーム医療の重要性』を再認識すること。多職種や患者さんと円滑にコミュニケーションを図る能力は、管理栄養士に不可欠な資質 。他職種を『差を感じる相手』ではなく『協働するパートナー』として捉えてみて。」
新人Aさん: 「ありがとうございます。他職種との差を恐れず、まずは現場での『気づき』を増やすことから一歩ずつ頑張ってみます!」
たぬきもん: 「小さなことからでいいから『課題発見』の癖をつけてみて。予定外の出来事に臨機応変に対応したり、喫食者のニーズの変化に気づいたりすること。それが専門職としての態度や職業倫理を育む一歩になるわ 。わからないことは他職種に敬意を持って質問し、栄養の観点から自分に何ができるかを常に問い続けること。それが『管理栄養士としての現場経験値』を積み上げる唯一の道だよ。」
対話のまとめ
- 「モノ」から「ヒト」へ: 栄養ケアのプロとして、人間中心のマネジメントを目指す 。
- 実務経験の差は当たり前:悲観するのでなく、日々経験値を積んでいけば差は埋まる。
- 課題発見と統合: 現場での気づきを、学んできた専門知識と結びつける訓練を怠らない 。
- チームの和: 多職種連携を円滑に進めるコミュニケーション能力を磨く 。
管理栄養士としての専門性を確立するには時間がかかります。焦らず、現場での「気づき」を大切に、一歩ずつ進んでいきましょう。
(参考文献:管理栄養士・栄養士 臨地実習マニュアル 2014年版 )
これからの仕事の仕方:差を埋めるための3つのアドバイス
- 「課題発見(気づき)」を習慣にする: 最初は完璧な栄養プランを立てられなくてもいい。まずは「昨日に比べて少し食欲が落ちているな」「この薬の影響で味が変わったのかな」という現場の小さな気づきを大切にして。その『気づき』を専門知識と結びつける訓練が、現場経験値を高める唯一の道。
- チーム医療のハブになる: 他職種とのコミュニケーションを恐れないで。実習時間が短い分、彼らが持つ情報を教えてもらいながら、栄養の視点から貢献できることを探していく。多職種と円滑に連携する能力こそ、今の管理栄養士に不可欠な資質よ。
- 自己研鑽を「現場」で続ける: 学生時代に足りなかった時間は、働き始めてからの努力で十分に埋められるわ。日々の栄養管理をただの作業(ルーチン)にせず、一例一例を「学びの機会」として積み重ねていきましょう。
管理栄養士スキルアップ
生涯学習制度と認定資格の活用
体系的にスキルを証明し、専門性を高めるために、日本栄養士会や各学会の制度を活用しましょう。
- 日本栄養士会「生涯教育制度」: 基礎教育から専門教育まで段階的に学べる仕組みです。
- 認定管理栄養士・専門管理栄養士: 特定の分野(がん、腎臓病、糖尿病、摂食嚥下リハビリテーションなど)において、より高度な知識と技術を持つことを証明する資格です。
- TNT-D(Total Nutritional Therapy for Dietitians): 臨床栄養の基本的な考え方を網羅的に学べる研修プログラムです。
- 日本病態栄養学会: 臨床現場で必要な病態別の栄養管理を深く学べます。
- 日本臨床栄養代謝学会(JSPEN): NST(栄養サポートチーム)活動に不可欠な、静脈・経腸栄養の専門知識を習得できます。
まずは、自分の興味がある分野や、現在の業務に直結する「認定管理栄養士」の要件をチェックすることから始めてみてはいかがでしょうか。
- 公益社団法人 日本栄養士会(生涯教育制度・認定制度) 管理栄養士のキャリアアップの基盤となる生涯教育や、各種認定資格の詳細が確認できます。
- 一般社団法人 日本病態栄養学会(認定管理栄養士) 病態栄養専門管理栄養士などの資格認定を行っており、臨床栄養のスキルアップに直結します。
- 一般社団法人 日本臨床栄養代謝学会(JSPEN) チーム医療やNSTに携わるなら必須の学会です。栄養サポートに関する最新のガイドラインやe-learningが充実しています。
- 一般社団法人 日本栄養改善学会 公衆栄養や栄養改善の分野で、学術的な知見を深めるのに適しています。

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